「風の又三郎」再演にむけて

 
再び「風の又三郎」のツアーがはじまる。
 
前もってひとつだけ伝えておきたい。
今、僕たちが失ってきたものは計り知れないほど大きくなり、なにを失ったかさえ見えなくなった。特に大きく失われたのは私たち自身の身体であるが、なんのことを言っているか認識できない人がとても多い現実がある。身体は実体として存在するからだ。しかしどこまで感じ取れる身体を保持し得ているかとなるとかなり怪しい。自分の身体ですら、自分が感じ取っているというより情報によって感じ取った気になっているとしたら……恐いなんてものじゃない。でもそれが実際に急速に進行して来た。僕たちは「これはなにか?」という視点でしか判断できなくなってきつつある。「なにを感じたか?」ではなく「これはなにか?」……人間には分析する前に、一瞬にして判断できる能力が備わっていたはずが、それが機能しない動物的能力の欠如した身体になりつつある。
「風の又三郎」は自然そのものを描いている。舞台で自然を描くのはどういうことか、と少しでも感じ、面白いかもと思ってもらえたならば、まだ身体の感覚が残っている可能性がある。
これからの時代は、感じ取れる身体を持たなければ生きていけない。情報が溢れかえり、怪しい食がそこら中にあり、政治は虚飾まみれ……こんななかで生きるにはなんと言っても鋭敏な感覚を持たなければ、ただただ流されるだけになる。
「風の又三郎」はそんな思いを強く持ちながら制作し、また新たな展開を試みる。ただの焼き直しではない。今回のツアーは地域創造の助成を受けての四館が連携してのプログラムとなり、公演ツアーだけではなく、ワークショップやさまざまなイベントが付随する。舞台はきわめてダイレクトに人の心と身体に響くが、実際に見るだけではなく体感する経験が加わればきわめて強い感覚的体験となって身体に残る。
ともかく、これが未来に向かってのひとつの矢印となって皆さんの心に残るなら最高に嬉しい。
まずは体感あれ。
 

小池博史

小池博史

演出家・作家・振付家・舞台美術家・写真家、‘舞台芸術の学校’代表

茨城県日立市生まれ。一橋大学卒業。TV ディレクターを経て1982 年パフォーミングアーツグループ『パパ・タラフマラ』を設立。以降、全55 作品の作・演出・振付を手掛ける。演劇・舞踊・美術等のジャンルを超えた作品群は35ヶ国で上演され、国際的に高い評価を確立。各国アーティストとの作品制作やプロデュース作品の制作、世界各地からの演出依頼公演、プロ対象・市民対象のワークショップを数多く実施してきた。2012年に解散後、「小池博史ブリッジプロジェクト」を開始。人間の根源を見つめるためのプロジェクトとして「マハーバーラタ」プロジェクトをアジア各地での創作・ツアーを2020年まで毎年実施予定。97~04 年つくば舞台芸術監督、アジア舞台芸術家フォーラム委員長、国際交流基金特定寄附金審議委員(05 年~ 11 年)等さまざまな審議員、審査員等を歴任。著書に「ロンググッドバイ~パパ・タラフマラとその時代」(青幻舎より)、「からだのこえをきく」(新潮社より)がある。現在、「舞台芸術論」を刊行準備中。
小池博史ブリッジプロジェクト 公式サイト
http://kikh.com/
Pappa TARAHUMARA WEBSITE
http://pappa-tara.com/