アーティストインタビュー

2030世界漂流・稽古場レポートインタビュー!
「2030世界漂流」の宣伝美術を担当、パパ・タラフマラの創立メンバーの一人でもあるデザイナー・イラストレーターの梅村昇史さん&小池作品の舞台監督を長年担当、ご自身も演出家として活躍されている中原和樹さんです!

梅村昇史さんインタビュー

1.小池博史が作・演出を手がけていたパパ・タラフマラ(1982-1986タラフマラ劇場)の創立メンバーの一人であり、1982年から1988年まで、美術・宣伝美術を手がけながら、パフォーマーとして出演もされていた梅村さん。小池博史は「「注文の多い料理店」で依頼したのが30年ぶり近くだけど、相変わらず、うひょひょだなと思う。」「なんせ彼の20歳の頃のチラシ、ポスター、今でも十分良い。全然、巨匠風にはならないけど、ホントに良い年の取り方をしていると思いますね。」と語っています。
梅村さんが、タラフマラ劇場(のちのパパ・タラフマラ)の創立メンバーとなったきっかけ、創立当時の小池博史の第一印象について聞かせて下さい。また、今でも変わらないところや変化したところがあれば教えてください。

梅村 きっかけは、タラフマラ劇場発足時のメンバーの一人とバイト先が同じだったというよくある話。スタートしたばかりでとにかく人を捜していて、自分が美大生というだけで勧誘されました。「美大の人なら舞台美術できますよね」的なノリで。当時、小池さんを含めて6人のメンバーがいて、基本的に一橋大学関係の人達だったので美大生というのは貴重な要員だったのでしょう。みんな20歳そこそこで、小池さんが5歳くらい上で当時26歳。26にも見えるし40と言われればそうなのかなとも思える年齢不詳感でした。今より痩せていて長髪で、知らない場所からやってきた越境者のような風貌で、第一印象は「どこのだれ?」というものでした。そこは今も変わっていないかもですが。
初めて会った時点で1作目の「壊れもののために」の脚本が出来上がりかけていました。自分は小池さんのやってきたことは全く知らず、もともと舞台を観たりする趣味もなかったのだけれど、何故かこれは参加した方がいいんじゃないかと思ったのでした。今思い出してもその「壊れもののために」は作品史的にもある意味最高最大の問題作で、1作目にして総決算と言いたくなるような、特殊な試みを全出ししたような作品でした。
先日20数年ぶりに小池さんの練習風景を見ましたが、小池さんのこの全出し姿勢のエネルギッシュな作り方は相変わらずで、出演者やスタッフのみならず観客のキャパシティーさえも一段上に持って行くようなパッションもまた一貫しているのかなと。音出しがカセットテープからパソコンのデータになってたところが自分的には大きな変化。

2.当時の宣伝美術はどのようにして産みだされたのですか。

梅村 発足の翌年(1983年)からポスター等を作るようになりました。その前にタラフマラ劇場のロゴを作って、みんなの名刺を作ったかな。当時はまだ学生で印刷についての知識もほとんど無いので、近所の印刷屋さんに原稿の作り方やコストの下げ方等を相談しながら作っていました。だからしばらくはずっと黒一色で印刷してましたね。
時代的にツールとしてのコンピューターが出現していないので、当然すべてが手作業でした。タイトル文字は手描き、それ以外の文字は写植、色んな絵柄を集めてハサミで切って糊で貼りこんでいくのが基本手法。でも、ひとつの公演のポスターやチラシを作るのに2時間かかっていなかったと思う。それは若さ故で、細かい部分の文字組みなどは今見るとビックリするくらい雑。でもこの年にやった3つの公演のポスターは、考える前に手を動かして一挙に作ったという良さはあるかなと思います。
しかしながら、これ以降は徐々にそういうわけにもいかなくなっていきました。それは機能的に本当にキチンとしたものを制作する技術と経験が、まだ自分には備わってなかったということもあるけど、今思えば、すごい勢いで変化を余儀なくされる80年代の動きにあわせて行くのに必死だったという感覚があります。タラフマラ自体も、『劇場』というネーミングが時代に合わないんじゃないかという葛藤をかかえるようになってきて、タラフマラ劇場からパパ・タラフマラに改名しました。公演のたびにロゴをリニューアルしたりして、ボツも含めて死ぬほどデザインを作っていました。今思うと何であんなに必死でロゴを作っていたのか不思議です。80年代はいろんな企業がロゴを刷新しては元に戻すという失敗をくりかえしていたので、とにかく社会の変化についていかなければならない、まあ、そういう変化の音が激しく聴こえる時代だったのですね。90年代に入ってパパ・タラフマラの活動と評価が確立された事を思うと、時代との関連性は考察の余地がありますね。そういうトークイベントがあってもいいくらい。

3.小池作品に美術・宣伝美術で関わることと、パフォーマーとして関わることの、共通点があれば教えてください。

梅村 パフォーマーとして出演といっても、自分は本当にただ出てただけと言っていいと思います。今、小池さんの作品に出演しているパフォーマーのみなさんは根本的にスキルとスペックが違います。基本的に自分の役割は、黒子でありつつも舞台上にいる最初の観客または傍観者、といったもので、作品にメタ構造をもたらすために存在している感じ。出ている自分もある種美術の一部の様な。
美術であれパフォーマ―であれ、関わる以上は小池さんの意図や美学に賛同してそれに貢献することになります。それをより良く実行するためには、これから作られようとしている作品世界の中で真剣に生きるというイメージで事にあたる必要があります。そうすると自分の中から予想もしなかったサムシングが出現してくる瞬間があるので、それをちゃんとキャッチできるように自分の感覚を常に全開にしておくと、作品のためのみならず、自分にとってもいい事があるかもですよ。

4.「2030世界漂流」のチラシのデザインは、どのようにして産みだされたのですか。

梅村 メインとなるビジュアルは、基本的にコラージュです。この手法は予算と時間の制約の中でも比較的大きな効果が期待できます。別に今回「予算と時間の制約」が強くあったわけではないですが、人生と仕事は「予算と時間の制約」との戦いなので(話がそれたか)。一応台本を読んで、絵のモチーフに整合性があるようにはしていますが、一方で画面が説明的にならないように内容に合わせすぎないようにもします。
小池さんの作品は様々な表現のエレメントがいくつかのレイヤーに重なって構成されるイメージがあるので、画面作りにメタ視点が入ってくるコラージュはとても親和性があると思います。それに滑稽な感じも表現しやすいです。でも次があるなら1枚の絵か写真だけ、または一切絵柄をつかわないで作ってみたい気持ちはありますが。
ちなみに今回の「十二年後の霧の向こうにいる あなたと世界のための 希望のブルーズ」のコピーも私が作っていますよ。

5.梅村さんからみた、小池作品の魅力についてお聞かせください。

梅村 いつも言っているのは、小池さんの作品は劇場をフレームにした「時間の彫刻」「空間に配置された絵としての音楽」であるということ。そういうコンポジションとして半ば無意識的にとらえると、わかりやすいし楽しみやすいと思います。でも実はベースになっているのはテキストとして書かれた台本なので、決して感覚的なものではなく、かなり意味の集積のある文芸的演劇の変形バージョンだとも思います。むしろそこが魅力なのでは。
テーマを言葉から解放して、パフォーマーのダンス的な動きのかたち、タイミング、レイアウトに変換した90分の抽象的な時間と空間のショーなので、ガッツと気合いでそこに意味を読みとって、独自に言葉化&ドラマ化して味わっていく見方もまたアリかなと。誤解も正解みたいな。


1枚目:タラフマラ劇場『闇のオペラ』(1983)、2枚目:タラフマラ劇場『タイポ~5400秒の生涯』(1983)



中原和樹さんインタビュー

1.小池作品の舞台監督を長年に渡り担当されている他、ご自身も劇団「もんもちプロジェクト」を主宰。生演奏のオリジナルミュージカルやストレートプレイ公演の演出・脚本を手掛ける他、外部においても子供ミュージカルの演技指導・演出、音楽劇、 オペラ等、多岐に渡って演出を手掛けている中原さん。小池作品に舞台監督として関わることのやりがい、魅力について教えてください。

中原 全く他で見ることのできない、唯一無二の表現や作品と出逢えることが一番です。
あとは、舞台という芸術の、広がりだけでなく、奥行や、時には次元の拡張も感じられること。
アイディアと考察、挑戦が必要なので、探究心・創作心が鍛えられること。
時代を見つめ直すきっかけになること。

2.中原さんが演出家として大切にしていることは何ですか。小池博史から影響を受けたと感じることはありますか。

中原 表現者がまず何かを「振る舞う」のではなく、そこに「存在する」ことを大事にしています。
その考え方に至るまでに、空間と時間への観点や、理性・思考への疑問、身体へのアプローチと、大きな部分で影響を感じています。
特に空間に対しての身体の在り方。

3.演出家・中原さんから見た、小池博史の演出の魅力について教えてください。

中原 時代を見つめる目がズバ抜けていることです。
また、ただその力があるだけでなく、芸術作品として昇華し、場・空間と時間と、人と、様々な要素を混ぜ合わせることで、結果としてその時代の「何か」が浮き彫りになるという演出は、何より作品に「強さ」を与えていると思います。
近年の舞台作品は、「強さ」がある作品が少ないという感触を持っているのですが、小池さんはそこがぶれない演出家であり、表現者であると感じています。

4.「2030世界漂流」のみどころについて教えてください。

中原 ほぼ何もない舞台空間を、身体や映像、音楽、照明などの要素によって、こんなにも「うねらせる」ことが出来るのだということです。
「埋める」ことや、「目立たせる」ことは簡単ですが、変容させることがまず容易ではなく、それが「うねる」という経験はなかなか出来ないでしょう。
そしてそこに未来が透けて見えてくるという体験も、かなり強烈な、衝撃的な体験になると思います。
これこそ舞台というナマモノでしか味わえない体験だと思います。


中原和樹/3枚目:劇団「もんもちプロジェクト」





梅村昇史
【梅村昇史(Syoji Umemura)プロフィール】
武蔵野美術大学在学中の1982年から1988年までパパ・タラフマラに参加。以降はフリーランスのデザイナー、イラストレーターとして書籍やCDジャケット等の仕事を生業とする。近作は小池さんの新著『新・舞台芸術論」の装丁デザイン。
フランク・ザッパの国内発売のための制作も手掛けておりライナーノート等も執筆。パフォーマンス関連としては、2015年にパリで公演され、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞を受賞した岸野雄一の『正しい数の数え方』のアート・ディレクション、イラスト、アニメのためのデザイン等を制作。2017年の札幌雪まつりで上演された岸野作品『トット商店街』のための巨大雪像のデザインと演出用のアニメーションも担当。



中原和樹
【中原和樹(Kazuki Nakahara)プロフィール】
1985年生まれ。劇団もんもちプロジェクト主宰・演出。日本演出者協会会員。山梨県立県民文化ホールアーティスティックアドバイザー。

舞台芸術の種類を問わず、ストレートプレイ、翻訳劇、不条理劇、ウェルメイド、音楽劇、ミュージカル、オペラなど、演出した作品は多岐に渡る。
劇作としても、自身の劇団でオリジナルミュージカルの脚本・歌詞、外部のラジオドラマへの脚本提供を行う。
また、フリーの舞台監督として小劇場・大劇場問わず、芝居やミュージカル・コンテンポラリーダンス・インプロ・バレエなど、ジャンルをまたいで舞台芸術に関わっている。


【2030世界漂流公演情報】
◆公演日程:2018年2月3日(土)~2月12日(月・祝) 全12公演
◆会場:吉祥寺シアター
◆チケット(全席指定席):
一般発売開始:2017年12月2日(土)10:00~公式HPのチケットフォームにて開始