小池博史インタビュー(後編)

1982年に発足したパパ・タラフマラ時代から、常に新たな表現を探求し続けてきた小池博史。狂騒的な空間からシンプルな空間へ、身体表現と共に音楽・美術・照明といった空間的要素が同等に扱われるインスタレーション的空間へ、多くの多様な文化背景を持つアーティストが混じり合っての包括的、総合的な芸術へと変遷を重ねつつ‘新しく’‘見たことのない’創作スタイルへと進化してきた。作家の天童荒太氏は、「パパ・タラフマラって何、と尋ねられたら、ダンスパフォーマンスと言い、演劇でもあると言い、練られた言葉と沈黙が同等の価値をもつ詩だと言い、音楽の芸術性が高く、美術も衣装も卓越した色彩と造形力で楽しませてくれ、声楽があり、笑いあり、人間にとって大切な性が誠実に描かれ、ときに上品、ときに猥雑、でもその混沌が人間であり世界であると、知覚はもちろん、体感として伝わってくる……と答え、体験を勧めてきた」と語っている。小池博史ブリッジプロジェクト発足後もその表現の探求はとどまることなく、新たな境地を開拓し続けてきている。 次回作「2030世界漂流」においても、元シルク・ドゥ・ソレイユのフィリップ・エマール、インドを代表する若手女優、ムーンムーン・シンをはじめ、オペラ歌手、ダンサー、俳優など様々なバックグラウンドを持つ出演者総勢13名と、生演奏による音楽×衣装×映像が絡み合う。インタビュー後編では、小池博史の創作のあり方と2030世界漂流参加アーティストの魅力について伺った。


小池博史作・演出 マハーバーラタの1シーン

――何故、言語や文化背景、バックグラウンドの異なるアーティストによる創作に取り組み続けているのですか?

小池 違った文脈のアーティストと行うということは、自分の方法論だけでは出来ないわけで、その中で新たな方法論を探らないといけないわけだよ。ただの形ではなくて、根幹の思想みたいなものを、いかに共有するかっていうことが問われるわけです。ものを作るのは、要は「形」を作り上げるのだけれど、もしそれがバラバラの「型」からなるとすれば形にしていくのは簡単ではない。その「形」を作り上げていくための思想がなかったら出来ないわけですよ。それは「調和」の思想以外のなにものでもない。なんでそれが特に今、必要かと言えば、今はほとんどがセパレートにもとづいた思想だから。セパレートする中で磨き込んでいく状態が普通になっている。そんな状況の中で、じゃあセパレートに基づかず素晴らしいものって出来上がるかどうかを問うていく。それが今後の世界を占う上ではとても大切になるだろうと思っているところから始めています。



――東洋文化研究家であり、坂東玉三郎氏と親交の深いアレックス・カー氏が、2017年8月のバンコク公演「戦いは終わった~マハーバーラタより」を観覧され、「マレーシア、インドネシア、日本、タイ北部の優れたアクターが持つそれぞれの才能と技術をうまく融合し、奇妙で美しいタペストリーを織りあげました。」「小池さんは一種の「スーパー・シアター」の手法を用い、強烈な情感と優雅でスピーディーな振り付けによって、難解さを超越した「マハーバーラタ」の真髄を直に観客に伝えました」と評しています。  異なるバックグラウンドのアーティスト同士が、どのような稽古によって調和し融合した作品となっていくのでしょうか。

小池 稽古で意識しているのは、ひとりひとりがいかによくみえるか。音楽もバラバラのバックグラウンドを持つ人たちだけど、その音楽が調和して感じられるか。衣装なども、参加国の衣装を混ぜ合わせながらも、それが不思議にみえずに、調和されてみえているか。そういう部分だよね。だから稽古に限らず、全部同じかなと思います。


――著書「からだのこえをきく」の中で、「異文化圏アーティストたちとの作品制作は、常に自分自身を問い直していく作業でもある」と書かれていますね。

小池 それは日本人とやるときも一緒だけど、創作行為というのは、ただ創造してるんじゃなくて、同時に破壊行為を行っているんです。破壊と創造があって、それが創作になっている。常に一方では、新しく形を作り、同時にそれでいいのかと破壊をし続ける。以前の繰り返しじゃしょうがない。常に意識するのは、破壊行為でもあるんです。


――常に新しいものを生み出していくには、破壊していくことが必要だと。

小池 両方必要です。創造が2だとすれば破壊は1くらいの割合で入らないとダメかな。



フィリップ・エマール

――『2030世界漂流』参加アーティストの方々の魅力・起用された理由を聞かせてください。

小池 フィリップ・エマールは「道化師」そのものだから。俺、昔っからクラウン好きなんだよね。哀しさがあるからかな。哀しみを内在化してるからだと思う。明るさや滑稽さは、やっぱり哀しみと背中合わせなんだよ。映画『フェリーニの道化師』が大好きでね。フィリップは内在化した哀しみを持ってる、と会った瞬間に思った。歌うまいし。

――今回小池博史ブリッジプロジェクト初参加となりますが、きっかけは?

小池 「幻祭前夜」と「世界会議」の公演を観に来てくれたんです。どっちの作品も呆然としてました。その時に初めて会って、いい感じだなと。



小池 ムーンムーン・シンは普段はとっても可愛い女の子。だけど一変しちゃうんだよね。舞台の上で。舞台に乗ると、もう娼婦にはなるわ、悪辣賭博師にもなれば、悪人にもなれば、とてもいい人にもピュアな女性にもなる。すばらしい。


――今回マハーバーラタ2に続く2回目の参加となりますね。きっかけは?

小池 もともとオーディション。インドの演出家のシャンカールの推薦があったんだよね。


ムーンムーン・シン(前列中央)

小池 荒木亜矢子はよくなったよね。かなり。魅力だけでいえば、もっと魅力的なのがいたんだけど。でもあいつは自分で磨くタイプだと思う。磨きこんでいくタイプ。だって普段見ても、さほど魅力的には見えないと思うんだよね。失礼!努力して伸びるタイプだね。

谷口界は最初に比べれば相当よくなった。ジャグリングも一所懸命やってるよね。今回ジャグリングやってもらおうと思ってんだよ。彼も、結構貪欲なんだなと思うよ。二人とも、貪欲なのと、自分の欠点を知っているところだね。

𠮷澤慎吾の魅力は、やっぱり「変わる」ってところじゃない。板に乗るとね。普段は全然おとなしくて全然ダメな男風だけど。その他のオーディションで入った人たちも、皆それぞれ魅力のある人たちです。


左写真:𠮷澤慎吾(右側)、中央写真:荒木亜矢子(中央後方)、右写真:谷口界(中央)


下町さん(下町兄弟・演奏)は、そりゃもうラッパーでヒットメーカーで、なおかつ、ジャンベ奏者、パーカッショニストであり、変なコマーシャリズムにはまらない、非常に面白い存在だと思います。

太田さん(太田豊・演奏)は、結構メロディメーカーだよね。サックス、竜笛、それから横笛一般、それからギターと。なおかつ根本的に使ってるのが横笛だっていうのが面白い。やっぱり古典の要素っていうのは場の感覚を広げる。とても重要だなと思っています。

左写真:下町兄弟、右写真:太田豊


浜井さん(浜井弘・衣装)は、いろんな意味で発想が面白い。「世界会議」もそうだけど、タラフマラの中期の衣装はほとんど彼なんだよね。一番一緒にやってきている。「SHIP IN A VIEW」「パレード」なんかももそうだしね。僕は彼が入ってくれるとウキウキする。それは彼にしか出ないアイデアに満ちるからなんだよね。

飯名さん(飯名尚人・映像)は、意図したことに対して的確な出し方をしてくれるっていう意味で、とっても面白いなと思ってんだよね。意図したこととまるっきり逆のことをやるっていうタイプと、なんか言われたまんまやる人っているんだけど、どっちでもなくて、なんか適格というか、いいバランスで入ってくるなっていう感じがしてます。

梅村しょうちゃん(梅村昇史・宣伝美術)は、「注文の多い料理店」で依頼したのが30年ぶり近くだけど、相変わらず、うひょひょだなと思う。パパ・タラフマラのファウンダーの一人。昔は巨匠と呼ばれていた。なんせ彼の20歳の頃のチラシ、ポスター、今でも十分良い。全然、巨匠風にはならないけど、ホントに良い年の取り方をしていると思いますね。

ーーありがとうございました。


左写真:浜井浩二による衣装、右写真:飯名尚人による映像




【2030世界漂流公演情報】
◆公演日程:2018年2月3日(土)~2月12日(月・祝) 全12公演
◆会場:吉祥寺シアター
◆チケット(全席指定席):
一般発売開始:2017年12月2日(土)10:00~公式HPのチケットフォームにて開始